94 月白結び
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― 夕暮れの木葉町 ―
……無事帰れたようだな。 お帰り、あっちはどうだった?
[突然何もないところから一人が現れても、交差点を行く周りの誰も、気に留めない。
出迎えは自分と、自分の足元の大人しい黒猫一匹だ。]
お前は誰だって顔してんな。 ライドウだよ、メール送ったろ?
[手に持ったノート型パソコンの入れ物を、軽く持ち上げて見せた。
やがて古臭い信号機から流れるBGMが、歪むことなく最後の一音まで奏で終え――……]
(+0) 2013/09/04(Wed) 06時頃
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ひとまず、俺に聞きたいことくらいあんだろ。 あそこにでも行こうぜ。
[丸い顎で指す、交差点前のハンバーガーショップ。
同行してくれるならば、適当な席に腰掛けていくらでも話に付き合うつもりだ。
その前に、ビッグトリプルバーガーとLサイズのポテトとコーラを二人分注文するのを忘れない*]
(+1) 2013/09/04(Wed) 06時頃
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[シャボンの薄い膜。 前後不覚になる霧。
弾き飛ばされた声と手。 古びた機械の音。
H県H市木葉町。 駅前通り交差点。 信号の明滅。
カラカラ… カラカラ… チカチカ… カラカラ…
カラカラ… チカチカ… チカチカ… チカチカ… ]
(+2) 2013/09/04(Wed) 18時半頃
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……うん。
(+3) 2013/09/04(Wed) 18時半頃
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[―――第一に、これは現実であるか否か。
H県H市木葉町。 僕がここにやって来たのは、つい数日前の事だ。 離婚という名の親の勝手な都合上、僕はこの田舎に越して来ざるを得なかった。 それまで僕はH県から離れた、首都T都の都会の中にいた。
駅前通り交差点。 僕がここにいたのは、コンビニを探してだった。 T都にいればあちらこちらに散らばっているはずのそれも、この田舎には点々としか存在していない。
聴いたこともない単音が信号の明滅を告げていた。 僕はそれを見ていたはずだった。]
(+4) 2013/09/04(Wed) 19時頃
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[僕はゆっくりと息を吐いた。 現実と幻想の境目に在る――そう僕が認識していた――鳥居をくぐって吐いた言葉は 「……うん。」>>+3 そんな無機質な返事だった。
獣の面をした生き物もいない、質素な田舎風景。 僕はどうやら帰ってきたようだ。
僕がつけていたはずの狐面も風呂敷もその中身も、手にはなく。 くすませた蘇芳色の瞳は見上げた。]
(+5) 2013/09/04(Wed) 19時頃
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僕は神隠しにでも遇っていたのかな、ライドウさん?
[人間に告げた言葉に温度はない。 悔いているわけでもなければ、安堵のようなものもない。 僕はありのまま思うままを口にして、持ち上げられたノートパソコンを見た。
留まろうまだ居よう、そう思ったのなら鳥居を目の前にして進んだこの足は止まっていたはずだ。
僕はただ導かれるように、鳥居の中へ吸い込まれていった。]
(+6) 2013/09/04(Wed) 19時頃
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―夕暮れの木葉町―
どうも。 僕は雁眞唯。
[初めて見るライドウという男は僕の何倍の質量を持っているのだろう。 僕はそれがプログラムされている事象であるかのように、名乗る。 足元には黒い猫、指されるのはハンバーガーショップ。 時間も時間だからか、客と呼べる人間は疎らにしかいないようだった。]
別に、興味ないね。
[「聞きたいことくらい(>>+1)」という声に返したのは、口癖のような言葉だ。 それでも僕は彼の後を追った。 彼が頼むのはおおよそ僕では考えられない量の食事だ。 それはもしや僕にご馳走してくれる気で頼んだのだろうか。 僕はバニラのシェーキをひとつだけ頼んで、席に座った。]
(+7) 2013/09/04(Wed) 19時頃
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聞きたい事はないけれど。 余計なお節介をありがとう、このアプリ。
[スマートフォンを立ち上げる。 そこに残る『既読』を、僕の煤けた蘇芳は映している。]
役にはたったんじゃないかな。 どうやって送ったかは知らないけど。
[僕はそのアプリからの発言を、もう試みようとしなかった。 僕の名前は削除されてしまっているのだろうか。 僕は、そうである事を祈ってさえいる。]
(+8) 2013/09/04(Wed) 19時頃
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[付いてくる子供と自分は、交差点の見える席に腰を下ろす]
ああ、メッセアプリな。 不思議だろう? 俺だって不思議だからな。
[お節介だと言われたにも関わらず、ニヤリと笑う。 その中で行われたやり取りは知らねども、多少なりともこの無愛想な少年の無関心ではない事は知れた。
二人分のセットの片方のバーガーをペロリと平らげて、コーラを啜る。 時折、視線は窓の外へ向けて]
ここからなら、次の帰還者が出てきたらすぐ判る。 本来ならあっちの1日なんか、こっちとの境目潜ったとき数秒程度の誤差としてカウントされるらしいんだがな。
……今はどれくらいの時間になるか。 希望込みの予測は数分から数時間ってとこなんだが。
(+9) 2013/09/04(Wed) 21時頃
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そう。 よくプログラムを理解しないまま構築できたね。
[抑揚のない僕の声。 ニヤリと笑う顔を一瞥して、僕はシェーキを啜った。 窓の外に向かう目線に、同じく交差点を眺め。]
ふうん。 じゃあ僕は失礼するよ。
[数分、数時間、どちらになるか僕には関係のないことだ。 僕は席を立ち上がり、ふくよかな男を真っ直ぐに射る。]
(+10) 2013/09/04(Wed) 21時頃
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僕はこの小さな街で、再会を喜び合うつもりもない。 もう一度誰かに会いたいかと聞かれれば答えは『No』だ。
[僕は笑えない、笑わない。]
また数刻で誰かが現れるとするなら、僕は失礼する。
[僕は与えられた役割をこなすだけ。 取捨択一の世の中で『必要』なものだけを適切に選択し。 意味のない現実を受け入れるだけ。]
(+11) 2013/09/04(Wed) 21時頃
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[僕の手には何も残らなかった。 持ち帰ったはずの狐面も、風車も、骨も、風呂敷も、何もかも。 まるで『忘れるべきこと』のように、残らなかった。 スマホに残されたアプリを起動させることもない。
リボンを失った首元だけが、妙に軽く。
スマートフォン、ポータブルプレイヤー。 財布に、なくなったシェーキのカップ。 どれもこれも現実味を帯びたものたち。]
(+12) 2013/09/04(Wed) 21時半頃
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[けれどしかし、僕を示すものなど何一つない。]
(+13) 2013/09/04(Wed) 21時半頃
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[あまりにドライな物言いにやや面食らう。 自分が子供だったころ、これほど物事にクールでなど絶対に無かった。
だが、その内面に立ち入ろうとなどしないのが、現代人の、大人の振る舞いだろう]
会いたい会いたくない喜ぶ喜ばないは、俺は関心無いけど。
……お前さ、あっちで何が起こってるか知りたくねえか?
[二つ目のバーガーにかぶり付く。 一口めを咀嚼し飲み込んでから、言葉は続く]
……それもまあ、もうこっちに戻れたお前には関係ないことか。
[無理に聞かせるつもりはない。 去ると言う言葉を否定もしない。
少年の少年らしさをあちらにどれだけ残してきたのかも、自分は何も知らないのだから]
(+14) 2013/09/04(Wed) 21時半頃
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[僕は煤けた蘇芳を彼に向けたまま、ドライでクールだという言葉を続ける。]
興味ないね。
[何が起こっているか。 僕が知って何が変わるわけでもない、そして何かが伝えられるわけでもない。 伝える事はない。 それはきちんとあの村に、残してきたのだから。]
うん。
[去る意思は揺らがない。 僕は少年らしくないその瞳を、ようやく離す。]
(+15) 2013/09/04(Wed) 22時頃
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じゃあ。
[僕はなくなったシェーキのカップを置いたまま、席をたつ。 振り向くこともなければ、何か囁くこともない。
「みんなによろしく」だとか 「誰かきたら連絡先を」だとか そんな言葉を頭に浮かべることもない。
彼らは彼らの、彼女らは彼女らの。 そして彼は彼の。
僕は僕の役割をこなす。]
(+16) 2013/09/04(Wed) 22時頃
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おい、お前……唯!
[席を立つ少年に向け、最初に名乗られた名前を呼ぶ。 二つ目のバーガーは机の上に包み紙だけ残っている]
もしいつか、あの里の奴らの未来に興味が出たら、 "ラッシード"でネット検索しろ。
俺のサイトの裏ページに情報を置いておく。 ページの鍵は、"sacrifice"だ。
(+17) 2013/09/04(Wed) 22時半頃
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[僕の無意味な名を呼ぶ声に、僕は振り向かない。 みみにした音に、頷くわけでもなく。]
『覚えてたら』、ね。
ああ、それと。 パスワードには英字に数字を混ぜた方がいい。 「いけにえ」だなんて単語一つだと、直ぐにアクセスされるよ。
[それだけを告げて、僕は店を出た。]
(+18) 2013/09/04(Wed) 23時頃
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―河原―
[僕は彼と別れて家路に着く。 僕の家は木葉町の少しはずれ、駅から歩いて15〜20分程度。 閑静な場所にある、小さなアパートの一室だ。 祖父や祖母は生憎他界していて、実家と言うのもなくなっていた。
家路の途中に河原を通る。 そこに河童の姿はなく、彼らと相撲をとる奇怪な「人間」もいない。 僕が幼い頃にボールを蹴った、河原だ。
僕は煤けた蘇芳をそちらに向けて、じっと見ていた。 意味のなくなったそこを、ただ、見ていた。]
(+19) 2013/09/05(Thu) 00時半頃
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[僕は河原の端に座り込んだ。
耳にはイヤフォン、流れるのは機械的音楽。 感情を押し付けないその音楽は、幾分と僕の心を落ち着かせてくれる**]
(+20) 2013/09/05(Thu) 02時半頃
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