181 アイスソード伝記
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――これから記すのは歴史の一篇。
正史の裏で繰り返されてきた とある小隊の運命の系譜が至る場所。
(*0) 2016/01/27(Wed) 06時頃
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《彼》と示された先。
物腰の柔らかそうな男が、 機械の多足でちょこまか動く博士を手伝う。
彼の名は、ジョン・クレパスキュール大尉。
「オーレリア」のこの時代の最初の契約者だった。*
(*1) 2016/01/27(Wed) 06時半頃
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[男はここから敬礼を送る]
(*2) 2016/01/27(Wed) 08時頃
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[たとえばそれは、何でもない日常の光景]
(*3) 2016/01/27(Wed) 23時半頃
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[帰艦した彼らを最初に出迎えるのは整備士のライジだ。
寡黙なライジは聞かれぬ限りは多くを語らない。 ツナギは薄汚れていたが機体はぴかぴかに磨かれている。 腰にぶら下がる工具はきちんと手入れをされている]
(*4) 2016/01/27(Wed) 23時半頃
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[整備中のライジの脇にちょこんとミツボシが座る。
同室のオーレリアにライジへの淡い気持ちを打ち明けた後、 人に似た機械の指先を一本唇の前に立てた娘は 幼い頃にかかった宇宙放射線病で生身を捨てていた]
(*5) 2016/01/27(Wed) 23時半頃
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[ラッシードのパーソナルデバイスから流行の歌が流れる。 バーガーを頬張りながら幅のある体がご機嫌にゆさゆさ揺れた。
昔は痩せていたのだと子供の頃の写真をポップアップさせると 腐れ縁のアンタレスとライジも一緒に写っていた。 彼らの着るものは質素であり背景は荒地が多かった]
(*6) 2016/01/27(Wed) 23時半頃
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[アンタレスについては、羽目を外しすぎた時の話をしよう。 連帯責任で小隊まとめて懲罰房送りになった時のことだ]
(*7) 2016/01/27(Wed) 23時半頃
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だーかーらーよー。 万馬券だぞ? 万馬券。 それをあいつらがいちゃもんつけやがってパアだ。
なにが、 おい、このプログラムにはバグがあるぞ だ
[なぜこうなったと問うライジの声に、鼻の下に二本の血痕をつけたままのアンタレスが、士官の声真似を添えて経緯を説明した]
「それがさっきの乱闘騒ぎか…」
[士官も兵卒も巻き込んでの艦内カジノ乱闘騒ぎの原因を ようやく得心したとライジが諦めまじりに呟いた]
(*8) 2016/01/27(Wed) 23時半頃
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「結局俺らだけ懲罰房送りだ。 士官さまさまだぜ! なあ。」
[いつにも増して腫れあがった頬に挟まれ おちょぼの口でラッシードがぶつぶつ言いアンタレスが頷く。 そんな二人に冷ややかな目を向けるのはミツボシだ]
「楽しく遊んでいただけの ミツボシさんたちに何か言うことはナイデスカー?」
[反省を促す娘の声はよく聞けば機械音声であった]
おう、今度また仕返ししてやろうぜ。
[揚々と頷くアンタレスにミツボシが指でバッテンを作る。 次いで傍らに居たオーレリアの出番ですとばかり 揃えた指先で彼女の存在を示した]
「ではここで。 リア少尉からのありがたいお言葉です」 **
(*9) 2016/01/27(Wed) 23時半頃
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[これもまあ、小隊の日常といえば日常の風景であった]
[それは364年の終わりになるまで続いた日々*]
(*10) 2016/01/27(Wed) 23時半頃
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[懲罰房に正座で座る思考機関「アイスソード」こと、 オーレリア・V・ジョクラトル准尉は、同室のミツボシに背を押されて、搭乗者へ顔を向けて首を横へ傾けた。]
今を生きることを否定はしませんが
(*11) 2016/01/28(Thu) 03時頃
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結果を予測することで、 不都合な事態を回避できる確率は 飛躍的に向上します。
[思考を止めるのは怠慢です。と、 ごく真顔でいい、]
(*12) 2016/01/28(Thu) 03時頃
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物理で殴る以外の方法も考えましょう
[ねずみ社会では、取っ組み合いの狩りごっこは子どもまでだそうですよ。と、冗談なのか本気なのか聞いただけではわからないことを言った*。]
(*13) 2016/01/28(Thu) 03時頃
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[それは364年の懲罰房でのこと。 オーレリア少尉のありがたいお言葉に、 胡坐をかいていたアンタレスの足が徐々に正座の形に収まる。 この絵図らには記憶があるぞと、かつての上官の説教を思い出したがお言葉はまだとつとつと続く。
怠慢です。と、ごく正論を述べられて、 ぐ。と言葉に詰まる。一理ある。
物理で殴る以外の方法も考えましょう。との提案に、 舌打ちしながらも思考を巡らせた男はぽんと膝を打つ]
よし、わかった。 おかげで一泡吹かせられそうだ。
[後に士官たちに仕返しするのは、イカサマポーカーで。 戦利品として巻き上げた上等な酒瓶を小隊室に並べて イエーイとハイタッチをしてからみなで祝杯を上げたのだった]
[それは過ぎ去った日の話**]
(*14) 2016/01/28(Thu) 06時半頃
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……ミツボシ。
[剣の声は、持ち主ではない人には拡散されない。 それでも、音無き声は同室の娘の名前を呼んだ。]
(*15) 2016/01/28(Thu) 12時頃
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[いつも黙々と仕事に励む彼の脇にいた彼女は、ここにはいない。──いなくなってしまった。]
… 気づいて、いましたか。
[唇の前に人差し指が立てられたことを覚えているから、具体的なことは何も言わないまま、ただ一言だけ尋ねる言葉が漏れた。]
(*16) 2016/01/28(Thu) 12時頃
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……
[ただ、言ってしまってから。 少女は眉を寄せて苦い顔をした。]
(*17) 2016/01/28(Thu) 12時頃
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(*18) 2016/01/28(Thu) 12時頃
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[回収作戦が終了したその夜。とんとん。と、アンタレスの部屋の扉を叩くものがある。]
──つきあってください。
[パシュ と気圧音の向こう側にいた少女は、酒瓶を手にしていた。別に酔えるわけでもない、容姿に似合わない高い度数の酒を手に、青い目は同乗者を見上げた。]
(*19) 2016/01/28(Thu) 12時頃
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[ライジのところにはラッシードがついています。と、そうとだけ告げて、後は無言でグラスに注いだ酒に黙々と口をつけていた。]
恨みますか。
[続く沈黙の中。口を開いたのは、 少女姿の方が先だった。]
(*20) 2016/01/28(Thu) 12時頃
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私の回収など考えなければ、 あんな大群の中に彼女が放り込まれることは なかったかもしれません。
[変わらず。声はどこか淡々としたまま。 青い目は透明な酒の水面を見下ろしている。]
(*21) 2016/01/28(Thu) 12時半頃
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[からん。とグラスを揺らして、 酒を冷やす氷を鳴らす。]
───、アンタレスは、どうして軍に?
[静かな声が、夜の隙間にひとつ 単純な問いを投げた*。]
(*22) 2016/01/28(Thu) 12時半頃
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[伝言にライジの目が見開かれ、
気づいてましたか。
重ねられた言葉に喉元から熱が込上げる。
そうだといいなと想っていた。
ただそれだけで、 満たされていたのだから]
[声にならない言葉が嗚咽に代わる。 しんと底まで冷えたようなハンガーの中、 首元だけが仄かに温かかった*]
(*23) 2016/01/28(Thu) 13時頃
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[夜、扉を叩く音がある。
リモートで空けた扉の先、酒瓶を手にした姿がある。 見上げくる青い目を見下ろしてから、 入れと促すのは室内へと向けた顔の仕草で。
ライジの所在に短く、ん。と答え 黙々と酒を飲むオーレリアを脇目に、 とくとくと自分のグラスも酒で満たした。
恨みますか、と声がして、 水面を見下ろす横顔に視線を向けた]
(*24) 2016/01/28(Thu) 13時半頃
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――いいや。
お前を吹っ飛ばされたのは俺だ。
[彼女に倣い自分のグラスの水面を見る]
(*25) 2016/01/28(Thu) 13時半頃
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どうしてか。
まあ、金だな。
[度数の高い酒にちびりと口をつけてから ぽつと問いに答える]
…ミツボシはよ 宇宙放射線病ってのは知ってたっけか。
治療費が高ぇんだわ。
(*26) 2016/01/28(Thu) 13時半頃
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俺たちはちいせえ頃から兄妹みたいなもんで。 寂れた故郷にはろくな働き口がないんでよ
三人揃って軍に入って、 がむしゃらにやって。 今に至るっつー感じだな。
[機械の体での延命さえも、軍でエスペラント博士と ひょんなことから出会わなければ出来なかったことだ]
お前は、どうなんだ。
[問いのあとに、視線だけを向ける*]
(*27) 2016/01/28(Thu) 13時半頃
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[ヒトと、人の姿をしたヒトではないものと、 酒と沈黙がそこにはあって、]
…
[いいや。と返答に少しだけ顔を上げた後、]
少しくらいは、 恨んだ方が気が楽ですよ。
[どちらが。とは言わず、 ちびりと酒を嘗める間をおいて、]
(*28) 2016/01/28(Thu) 15時頃
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片側に、 …──ひとりに。
すべての責任を持たしてしまうなら。 "同乗者"である意味がありません。
[そこらのAIと同じです。と、 人型の思考機関は言った。]
(*29) 2016/01/28(Thu) 15時頃
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