[懐っこいノアはもう死んだ。
かわいいマリオの手伝いはもう貰えないし、聡いユージンは自分の宿に人間を案内しない。
ユージンの案内してきた人間も何人か食べたわけなので、ユージンだって殺人宿と知っていたら案内などしなかっただろうけど。
サイモン含めて全員が前途ある若者で、彼らはどんな未来を暮らしたかったのだろう。
ノアが何も知らないでこの村に来たばかりのころ、調子よく宿屋の主人に構われていたのだって――場合によっては食べようと。そう思っていたからなんだぜ。
昨夜の見捨てられた犬のような表情が、思い出すに少し滑稽で、愛嬌とかわいげがあって、――こうして今は死んでいて、実にかわいそうだ。
ノアの人生を食った。彼はこの村で死を悲しんでくれるいい友達を見つけて、楽しく過ごして、寂しがりだからこそ――誰が欠けても寂しくて人を守ろうと奮闘したのかもしれない。懐っこい男のその血肉は噛みしめるとすこし甘かった。]
(*29) 2018/08/03(Fri) 20時頃