―校舎・正門前―
[正門から出てすぐ、道端に設置された香炉が見えた。よっぽど蹴り倒してやろうかと思ったけれど、誰に見られているかわからない、その衝動をぐっとこらえて、こぶしを握った。
思い切り息を吸うと、村を覆う香が肺に入り込んでくるのを感じる。それに嫌悪感がないわけじゃなかったが、今はそれでいいと思った。この香には、死に対する嫌悪感や恐怖心を和らげてくれる効果がある。なんとなく、それはわかっていた。すぐに見つかるかもしれない、今日にでもみんなに殺されてしまうかもしれない。そういう気持ちがすっと掻き消えて、死ぬことがうれしいことのような、誇らしいことのような気がしてくる。
処刑に対する怒りでまだ、頭が煮え繰り返っている。
マユミのためなら俺は死ねる、それは誇らしいことだと思える。
それが本心なのか、香の効能に過ぎないのか、気づかないようにする]
(*19) 2016/04/02(Sat) 20時半頃