―回想、あるいは追想・ある“花”の記憶―
[その花はとある町の処刑台の下に咲いていた。
名を呼ばれる事も無く、ただ死に逝く者から“命”を貰う代わりに、死が迫る恐怖、世の無常への諦念、抑え切れぬ恨み……それらを慰めるように、ただ黄昏の空に似た紫の花を咲かせる。
花は自らの在り方に疑問を持つ事も無く、ただ其処で咲いていた。
時は流れる。
花は自らに与えられる“命”が、いつの間にか無くなっている事に気付いた。
(それが流行り病のせいである事を、花はその随分後に知った)
花は大いに戸惑った。
今まで与えられる事が当たり前だったもの、与えることが当然だったものがそっくりと無くなってしまったのだから。
雨が降り乾いたその身が潤っても、花は満たされなかった。
その雨もある時から無くなった。
(その年は酷い旱魃だった)]
(@121) 2014/11/06(Thu) 16時半頃