[それからの記憶は曖昧だ。
頭が上手く働かないまま何処かへ向かい、殺風景な部屋の中で妻の遺体を見た。
体温を失って久しい身体は、やけに乾いて、小さく見えた。
艶やかで美しかった髪も、ぷっくりと膨らんでいた唇も、乱れて、枯れて――薬指の指輪だけが、出勤を見送ってくれたときの彼女と何も変わらずに輝いていた。
妻は数人の男に陵辱され、殺されたのだという。
体内に残った体液から男たちを割り出し、捕らえることが出来るのだという。
しかし、それが何になる?]
百合、……百合、どうして……なんで、……お前が……
[涙も出ない。
ただ、淡々とした呟きだけが唇から零れていく。
どれだけ妻の亡骸を見つめていたかは分からない。
フランクを気遣ったのか、誰もいなくなった部屋で一人、妻の死と向き合って、向き合って――一つの答えを導き出す。
彼女は死んだ。それは、人の手では覆しえない事実だ。
――では、人ならざるものの手であれば、どうか。]
(@16) 2018/02/21(Wed) 20時半頃