[ ─いつか─
──…蒼い月が輝く夜には何かが起こる。そう信じるようになったのは何時からだったか。
とある奴隷の少年は、誰よりも一際強い憧れと期待を込めて、昏い夜を生きていた。思うのは、例えば。
一日の間に鞭で打たれずに生活したいだとか
殴られて起こされることなく寝てみたいだとか
少年の"自由"という言葉への憧憬は、常に、奴隷ではない存在への渇望と共にあった。
奴隷の黒玉にも似た瞳へ映る月は、空へと浮かぶ幾多の屑星の明りのひとつではなく、少年の願望を映す鏡であり、唯一の希望であった。
吹き曝しの大地を煌々と照らし出す夜の太陽は、一人の奴隷の事など気にもかけずに、毎夜ただそこに浮かんでは柔らかい光を静かに降らせているのだった。
夜に鳥は飛ばない。人も獣も、昼を生きるものは眠りの海へと沈んでいることだろう。
屑星達が薄くなり始める頃合まで夜を歩くのはいつも少年だけだった。明けない夜を生きる少年は、夜を照らす明りの色の不変にもそのうち慣れてしまった。 ]
(-146) 2014/11/07(Fri) 20時頃