[そんな己の狡さまで搦めて引き寄せる強さに焦がれ、彼もまた、懼れを抱えているのだと知ってしまったら愛しさが溢れ、認めざるを得なかった。
とうに本気だと。
抜け出せぬ泥沼の中でもがき、苦しんで、それが愚かな選択だと知りながらも止められなかった。
何と引き換えにしても、今、欲しいのは。]
……、………君はそうでも、私は、……
[一方、こうしている瞬間も、すぐに後悔が襲う。気持ちだけで如何にかなると信じられる若さや自信があればここまで悩まずに済んだ。
冷静と情熱の間に揺れ、葛藤する間も、頑固を溶かすような声が鼓膜に響く。
愚図るように隠した表情の縁を指より柔いもので撫でられ、甘えるように身を寄せたのは無意識のこと。
とうに傾き切った天秤の向きに、理性だけが背を向ける。]
(-144) mumriken 2019/08/07(Wed) 17時半頃