よろしい。
[>>542笑った。
平時の胡散臭い笑みではない。
三日月のように目を細め、限界まで唇を釣り上げて尖った犬歯を剥き出しにした、悪意の滴る笑顔だった。
剥ぎ取るように眼鏡を捨てる。瞬間、黒かった瞳が、血を浴びたように赤く染まった。瞳孔が猫のように細い、魔眼。
一気に踏み込んで近づくと、リツの傍らに立つ。
ぐ、っと顔を近づけて顎を掴み、彼の瞳を覗き込んだ。
――動くな、と]
[指一本も動かせなくすると、すぐに視線は逸れ、彼の首筋へと一気に牙を立てた。
甘美な鮮血を啜りながら、唾液と、血を彼へと注ぎ込む。
唾液は快楽を伴った麻酔となり、血は呪わしい魔力となってその身体を駆け巡る]
――……、は、
[たっぷり時間を掛けて吸い上げると、傷口をゆっくりと舐め上げる。
直後穿たれた二つの穴から這い出るように、彼の肌に赤い曲線が浮かび上がった。
それは彼の首を一回りして、奇妙な紋様を作り上げる。
淫欲の呪縛が身体を掌握した、決して消えない証]
(553) 2016/06/06(Mon) 23時頃