――――……母?
[にこやかに話していた表情が一瞬で凍りつく。それは、この寒さに晒されてのものではない。
僅か視線を伏せれば、長い睫毛が頬に影を落とす。口元に指をあてて、少し考え込む素振りを見せる。]
もし、そうなら……良かったかな。
[父も母も知らない。死んでいるのか、生きているのか、知る術すらない。
ルーカスだけではなく、多くの皆が母がいて、父がいて、あるいは兄弟がいる一般的な家庭を持っていることを知っている。
でも、自分はそれを持たない。ゆっくりと首を振って、視線をあげる。]
ごめん、ルーカス。何の意味も持たないただのストールだよ。
[これ以上は触れられたくないから、わずか線引きをする。心の奥底にどす黒い感情が渦巻くのが分かる。
これ以上この話題で口を開けば、きっと心無い一言を言ってしまうから、口を噤んだ。]
(538) 2013/12/07(Sat) 23時頃