【人】 ランタン職人 ヴェスパタイン

―ある晴れた春の日―

[フィリップとドナルドの模擬戦は随分と盛り上がっていた。
組んだ指の背に顎先を乗せて、その様子をぼんやりと見守った。

心此処にあらずなのは、国に戻ると言ったまま帰って来ない
若い楽師の事を、思い出していたからだ。

同行したドールの惨状を省みるに――
結末の予想はつく。

けれど、それを信じたくない心の方が、強かった。
今は、未だ――

けれど、若しも誰かに殺されたのだとしたら。

――右の掌が、じくじくと熱を帯びていく。
暫しの思案の後…、隣の、百合とデザートの備えられた席へ
もうひとつ、あたたかい紅茶とケーキを、所望した]

(525) presage 2014/02/12(Wed) 04時頃