― 独房フロア廊下 ―
[ベネディクトの血液は最早液体ですらない。半分以上侵食を果たした芽は、ベネディクトの身体を内側から人ではない何かに変えようとしていた。
少量の出血から生じたのは、体長2センチほどの小さな赤色の生物だった。この生物はベネディクトの故国の言葉で"エーゲル"という。手足はなく、地面を這って移動する。若干湿り気を帯びた身体には、小さな目と大きな口がある。肉食で、人の手足にそっと這い寄っては噛みついて血を吸う、"アレ"だ。
しかしながらそれはまだ生まれたてで、誰かに害を為すこともない。"そこにいるだけで気持ち悪い"という視覚的な害はあるかもしれないが、足で踏みつけるなり火で炙るなりすれば簡単に退治でき、ただの血液へと戻る。――退治できる、ということは言いかえれば【これは幻覚ではない】ということだ。]
(484) 2012/04/12(Thu) 11時半頃