(……………。良く、…見てるな。)
[それとももしかしたら、人目につく程に俺は彼と話していたのだろうか――あぁ、彼にももしも、樫木と同じ事を思われていたら。自分は一体、どうしたら良いのだろう。
けれどここで狼狽える訳にはいかないと思いつつも、止まった腰を無理やり椅子に沈めたから、どうにも勢いがついてしまって逆に不自然だったかもしれない。
――座れるものなら、座りたかった。
恨みがましいようなそんな言葉は勿論口には出さず、軽く目を伏せ返す言葉を探し始める。]
…………、相変わらず口が良く回るな。
駄目だと言ってどうするんだ、…いやそもそも駄目じゃあないが。
手袋は……、その、何だ。借りたんだ。
[あぁ、全く。座席の事と言い、手袋の事といい、良く見ている上に憎らしい程に口が回る相手だと、半ばやつあたりのように眉を寄せて。
それにしても、エンジン音に紛れて聞こえるのは "あの人" と隣の青年との微かな話し声。
此方から見えるのは向かいの窓に映る彼の髪くらいだと言うのに、何とも全く羨ましい事だ。]
(424) 2015/11/20(Fri) 00時頃