―― 回想/薬屋さんとの出会いと、それから ――
[父を亡くした頃、とても怖い顔立ちの大きな男の人がお店に訪れた。
母と交わす会話から、奥様が亡くなってしまったことを知ったけれど、一人で接することは怖くて、いつも母の後ろに隠れて母のエプロンを握りしめて覗いていた。
男は自身のことを、ダンと呼んでくれと。そう告げて豪快に笑った。
そんな或る日、転機が訪れる。
母が花の配達で居なかった時に、ダンが訪れたのだ。
彼がいつも漂わせる薬品の匂いは、当初、亡くしたばかりの父を思い出させて悲しくなったけれど、時と同じくして祖父の足の具合も悪化の一途をたどっていた頃で。
初めて二人きりで話をしたその時。
彼から差し伸べられた言葉は、救いに見えた。>>358]
それ、本当?
……あ、あのね。
おじいちゃんの足が悪くなっているの。
私じゃ街に出てお薬も買えないわ。
ダンは、……ダンなら、おじいちゃんのお薬、作れる?
[肉親をもう一人も失くしたくない。そんな思いが溢れてダンにそう告げたのは、私がまだ一桁の年の頃の、話。]
(421) 2015/05/11(Mon) 00時頃