― 春の日 ―
[とうとう火を使わずに料理が出来る箱が出来たと喜ぶトレイルに、己は驚いていた。>>360
彼の才能は理解していたが、短絡で簡単な「止める」ことよりも、難解で面倒な「進む」方を選び取るとは言うほど易しくない。
全ての魔法と科学はキッチンから生まれると言ったのは誰だったか。
強ち間違いでもないらしい。
チラリと満足げな彼を横目で見やり、己には理解しきれない仕組みを語る相手へ上体を傾ける。
彼に心生かされる自分は、せめて彼の身体生かす自らでありたかったが、如何にも彼は聡くていけない。
こんな場所まで見抜いてくる。
止まらぬ解説を聞き流しつつ、傾いた上体が彼の視界を遮り、ちゅ、と小さな音を奏でて唐突に唇を奪う。
この身体も、お前に生かされよう。と白旗振るだけでは、幾ら事実でも格好がつかない。
代わりに送った口付けで、―――彼の心を奪った。*]
(411) momoten 2014/02/11(Tue) 23時頃