やっぱり、ありませんか……。
いえ、ありがとうございました。きっと、どこかに落としてしまったんだと思います。
後で拾得物の方を探ってみますので。
えぇ、誰かに拾っていただければ、俺のものだとは分かると思いますし、届けられているかもしれませんから。
[キーホルダーには、『ヤチグサ』のネームが彫られていた。
車いすの白衣の教師が、その服装にあわせた「白」のワゴンで登校していることは、生徒であっても多くの者が知っているはず。
大丈夫だ、と言い聞かせた。きっと見つかる。
仮に拾った誰かが悪戯心で中に入り込んでしまうことはあるかもしれないが……見られて、触れられて困る物など、今は入れてはいない。
特殊な型のため、売りはらおうとする者も、平常時ならば運転を試みようとする者も、いないことだろう]
放課後まで探してみて、もし見つからなかったら、最悪、業者を呼ぶことにします。
……と、あぁ、もうすぐ午後の授業が始まる時間ですか。
[見つかる、とは信じている。
けれど、日常を送るための貴重な足を失った心細さが、男の不安を掻き立てていた**]
―昼休み・2号館2F/職員室・了―
(396) 2011/11/30(Wed) 00時半頃