[天は二物を与えない。
俺に与えられたたったひとつは、絵だ。
それでよかった。
ずっと、そう信じていた。一片も疑うことなく。
その絵を失うと宣告されて、俺はどう生きていけばいいかわからなくなった。
もっと正直に言おう。絵が描けない人生に、俺自身に、価値を見出せなかった。
死んだも同じだと思った。いっそ殺してほしかった。
未来の俺が、目の前にいる。
天から与えられたたったひとつを失ったのに、どうやってお前は生きてるんだ?]
……よお。
[どうしてお前は生きてるんだ? そんな言葉が出掛かって、飲み込んだ。その言葉は誤解を招くだろう。生きてる価値がない人間だと、断罪しているように聞こえるかもしれない。
俺が三神に向ける感情は、それとは違う。
俺がどうやっても生きるビジョンを見出せない未来を、こいつは生きている。
俺が三神に抱く感情は、おそらく尊敬というものだった。
だけど、言葉が見つからない。
結局出てきたのは、挨拶ともつかないようなそっけない二文字だった。**]
(393) 2017/09/22(Fri) 18時半頃