― 体育館 ―
[人の気配のない体育館は、何だか不思議な感じがする。
この体育館、自分が歩くのはいつも壁際。
入学式は休んだし、始業式や終業式で集まることがあっても、後ろの隅に用意された椅子に座るか、保健室待機だった。
体育の授業は、見学だったし。
みんなでボールを追いかけてるのを、見ているだけ。
そんな時間を過ごしただけのこの場所に、なぜ足が向いたのか…自分でもよくわからない。]
(あ、ボール。)
[誰かが片付け忘れたのか、床にはバスケットボールがひとつ。
杖を突きつつ近付き、ボールを拾い上げる。
床に描かれたラインに立つと、杖を床に落とし、両手でボールを投げると、ボールは弧を描き、ネットに吸い込まれた。ネットに擦れる音も、心地良い。
床に落とした杖を拾い上げ、小さく息を吐くと、そのまま体育館を後にする。
ボールの弾む音が消えると、再び体育館には静寂が訪れた。]**
(387) 2017/09/22(Fri) 13時頃