─ 湯上り ─
[そうしてゆるりと湯船を堪能し、衣を預けていた籠を抱えて出入り口のところまで戻ってきた。
衣と陣羽織を纏い、身体を拭う肌触りのいい布はそのまま肩にかけた状態だ。
抱えた籠の中には外した具足を入れ、適当に休める部屋を見つければ後で籠は戻しに来る算段だった。
そんなふうに元来た道を戻れば、己が置いた林檎が減っていることに気がついた。]
なかなかにして美味いものだが、食べてくれた者の口には合ったかねぇ。
[そんな独り言を洩らしながら皿を置いた卓の前まで歩めば、皿の傍らにあったカードにお客人の姿が淡く記されていた>>311。]
花が食べてくれたのか。
[林檎の実の周りにふわりと記された花の絵を見て、そう直感する。
貴船菊に似た花を見て目を細めたのは、蜜色の絵を記してくれた者の気持ちが伝わるようだったから。]
(376) 2015/12/14(Mon) 22時頃