[指先で捲ったカルテの中。
若くして逝った患者のカルテで手が止まる。
その女性は経産婦には見えないくらい儚いひとだった。
指を挟んだのは偶然ではなく、思う所があった所為だ。
ここへ辿り着く患者の大概は全てを諦め死を望むが、その女性は―――、まぁ、有体に言えば悲劇に酔っていた。
精神不安から鬱を患った訳ではなく、己の見立てでは性格故のヒロイスティック。流石に患者を差別するような恥ずべき行為はしなかったが、端々に見える無責任さに内心息を吐いたことは幾度か。
他者の家庭に介入するほど偉くはないけれど、まだ幼かった子を思えば、どうか性格が遺伝でありませんようにと祈ったことも多々。
祈りが通じたのなら、孤児院の紹介もしただろう。
毎日死人が出るような診療所だ、簡単なアフターケアと葬儀屋の手配はその辺の死神より心得ていた。
ともあれ、当時はその無責任さ、身勝手さ、奔放さ。
どれにも呆れていたが―――、
振り返れば然程彼女を咎められない立場になっていた。]
(368) 2019/10/10(Thu) 01時半頃