[男が車いすとなった理由。
それは、かつて生徒たちから訊ねられたことがあったとしても、『交通事故』以上のことは口にすることはなかったはずだ。
不注意のためダンプにはねられた。頑強な男の体でも、無機的な衝撃には耐えられなかった。だから、みなさんも車には気をつけましょう。
本気と冗談の入り混じった回答に、嘘は微塵も込められていない。
ただ……一部の真実を伏せたままにする。
そんな誤魔化し方も、当然ある]
とはいえ、接触せずに済むのなら、それに越したことはないですけどね。
サンテックスさんと違って、俺はそんなに若くないですから。
無茶すると、何かと後々に響くんですよ。
[コーネリアに向けておどけた調子で肩をすくめる。
暗に、大丈夫だ、と虚勢を張って。
そうだ。あの事故の後だって、乗り越え今までの日常を築いてこれたではないか。
今はただ、するべきことを行うのみ。
腕に刻みこまれた死者達の、途絶えた歴史の重みとともに]
―回想・駐車場にて・発進前・了―
(364) 2011/12/04(Sun) 16時半頃