― 春の日 ―
[隊務を退いてからというものの、研究の日々だ。
されど、過去を追うことは、ぱたりと止めてしまった。
振り返る事に人生を費やすよりも、前に歩く事を見据える
今着眼しているのは、火を使わずに調理をすること。
難題に書物を漁り悩んだ挙句――なんと「箱」に呪をかけた。
スチール製の箱の内側に己の血で印を綴り、
マイクロ波を発生する仕組を整える
これで陶器製の器ですら中身を熱する事ができる。
火を使わない、火傷をしない。彼の言い付けを守る魔法の箱。
男が永遠の眠りを選んだその後も、この箱は残る。
魔法は誰にでも使える代物ではない。
代替を用いて、この便利な仕組を作れないかと
未来の科学者は頭を抱える事になるだろう
唯一人の彼の為に生きた男の足取りが、
文明発達の礎と変わるのは、――また別の話。]
(360) motimoti 2014/02/11(Tue) 20時半頃