―5月2日午前10時頃、市街地中央部―
>>334
ああ、だからさっさと帰って――ッ!
[強がる言葉は重く鈍い物音と跳ね返る飛沫に掻き消された。バランスを崩した身体は容易く相手へと倒れこみ、手にした傘が舞うように地面へと落ちる。微かな戸惑いに震える指先を握ってはまた伸ばしかけ――結局は彼の背へと回した。
明日になったら――処刑の事を知ったら、チアキはどんな顔をするのだろう…それが怖い。今自分を抱く腕に突き放されるかもしれない恐怖を誤魔化すように、きつく縋り付いた]
…なんで謝んだよ…訳、分かんねぇ
[なぜ彼が謝るのかはわからなかったけれど…理由も聞かずに抱き締める腕の優しさに、きっと今は甘えてもいいと、そう思った。
濡れそぼった髪へと顔を埋めて雨の匂いを吸い込むと鼻の奥がつんと痛む。今にも泣いてしまいそうだと、けれど上手くは泣けないままに喉を震わせる嗚咽を飲み込んで吐き出す言葉は、冷えた空気に触れて白く濁った。濡れそぼった彼のシャツへと食い込む指先の震えが止まらないのは、きっと寒さのせいではないのだろうと――]
(352) 2013/07/22(Mon) 23時頃