──廃病院──
[ 鎖がついているということも、全裸でいたことも、内腿に垂れている薬液のことも>>-1773、ヘクターが生きているという事実の前では小さなことだった。
表情に、ただ抱き締められている体に、疑問を呈することはなかった。]
中身って内臓、か? 俺のせい、だよな。すまなかった……
[ 手術痕の残る腹部に視線を落とす。
申し訳なさそうにはしたが、ただそれだけだった。他には何かされていないか、亀吉を恨んでいるのか、そんな心配は浮かばなかった。
──だって、もしそうだとしてもそれは些細な問題なのだから。
口づけは血と酒のような味がした>>1774。
どこかで飲んでいたのだろうか、などと状況にそぐわない思考を自然とする。
ヘクターの心の内はつゆ知らず。十年前のことも、先程抱かれていたことを知られていたことも知らない。
ようやく回された腕と体温に心地よさを覚え、しがみつくように抱きついた。ぽつりぽつりと話し出す。顔を胴に押しつけるようにされたが、少し体を話す。顔を見たかったが、まあいいだろう。
長年の付き合いのヘクターでも聞いたことのない、優しげな声音で語りかける。]
(343) ひひる 2016/06/22(Wed) 20時半頃