― 回想>>261 ―
[今度は倒れることなく遺体を見送れたのは、同伴を申し出てくれたセシルの存在も大きかった。人目のあるところでは、取り縋って噎び泣くことなどできない。各々、異なるものを彼の顔を失った屍に見ていたのだろう]
親類の情とも異なる何か。
嗚呼、わたくし、あのどうしようもない酒臭があっても、
……本心から嫌うことなど、できませんでした。
[血の気を失って慄く唇。他者が検分するのすらもう見ていられなくて、退室間際>>280]
残念ながらわたくしは、バーナバス様の交友関係も何も、存知上げません。
酔い潰れていたところを襲われたのでしたら、
嘗ての蛮勇も奮いようがないかと。
[そう、例えばこの手でも絞め殺せたかも知れない。視線を己が掌に落として、ふるふると頭を振る。
後にルーカスの訃報も耳に入ったが、一日に何度も死体と対面したい気分ではないので、実況検分は他の者に任せることにした]
仮面を、探してしまえば。……嗚呼、けれどもう腕環もないのに、どうやって?
― 回想/了 ―
(315) 2011/02/09(Wed) 19時頃