[初めて幼馴染の前で大泣きをした時。理由を尋ねられても、答えることができなかった。さすがに、男として情けない、とか。仲が良い兄弟だと思われていたし、慶太もその日まで思っていたとか。それもあるけれどそれ以上に、ただ何をされたかわからなかったのだ。知識としては知っていても、自分が、まして兄の、その対象になるなんて夢にも思わなかったし。恋とか愛とか、そんなもの。理解のできないものだったから。
零の家に駆け込んだのは無意識で、何をしてほしいわけでもなかった。それまで何かがあった時、相談をするのは兄か幼馴染にだったから。無意識の刷り込み、のようなもの。ただ、一つ理由を挙げるとするならば。零の手は好きだった。それだけ。
その時も優しく撫でられて>>194、かけられる慰めの言葉。
怖がることなんかない。本当に?
「俺がいる」>>195続いた言葉に、目を見開いた。零が。そばにいてくれるなら、怖いことなんてないのかもしれない。
彼自身も悩んでいたらしかったことは、その時ばかりは頭から抜け落ちて。その手に、言葉に。全身で甘えてしまった。**]
(313) 2016/09/20(Tue) 13時頃