[ただ。
港に現れたヘクターの姿を見たら、その手土産は、渡すことも出来ずに鞄の中にしまいこんだままに、なってしまった。
髭を剃って、髪も、服装も、整えられて。
その姿は、"ヘクター"と知っている彼からは遠く、"ヘクトル"だったから。
気恥ずかしくなってしまって、手が止まってしまったのだ。]
……必ず、また会えるって、信じてます。
それと……ありがとう。
[彼の国には、多くの哀しみをもらって。
けれど今の自分があるのも、ここにいるのも、彼の国のためとも言えて。
小切手の件も、ヘクターに会えたことも、こうして見送れることも。
全て合わせて、ありがとう、に詰めた。
その思いのどのひとつもヘクターに話したことはなかったけれど、それでいい。]
(303) mmsk 2013/06/27(Thu) 00時半頃