[バックパックは背中に、トランクと手荷物を詰めた布鞄はまとめて右手に。空いた左手は、コテージに運び入れる荷物のために使う。コテージまでの短い途、腕力の限界に挑戦だ。
ヒューバート……改め、ヒューとの会話は道中で途切れた。逃げてしまった彼の背を、僅かに細めた目で見送りながらこの場では最後になる声を投げる。「顔を上げないと、転びますよ」――これは、喩え話ではなく、単に夕暮れの道すがらを案じての注意。だったということにしておこう。]
――イングラム エクゼクティブ・ディレクター。
お荷物、お持ちいたしましょうか?
[――腕力の限界に挑戦中。
皺のついたジャケットを羽織って歩くジェームスの背を見かけると、背後から一声かけはしたが。実際に荷物を預るのは物理的に不可能で。すみません、と荷物を担う重い肩を、少しだけ竦ませた。]
(298) 2015/11/12(Thu) 00時半頃