[ 爪で裂かれて突っ込まれるのだろうか。それはどれほどの痛みか想像はできないが、気持ちいいということはありえないだろう。そうすれば快楽に溺れて自分でなくなることはない。ただ痛いだけなら、ヘクターと交わったという認識も芽生えないで済む。場違いに奇妙な安心感が生じた。
これから襲いくる痛みに備え、抵抗の意味も込めて行き場のなくなった左手で相手の左肩をギリギリとつかむ。
そのとき、ヘクターが不意に動きを止めた。訳がわからず爪を立てていると、人の声と二人分の足音。更に一拍置いて、ノック音と四井の声がした>>278。
咄嗟に助けを求めることはできなかった。
プライドが邪魔しているわけではない。組伏せられ、男に襲われていることは己の失態だから。
「ヘクター」の名誉や命を気にしてのことでもない。それは必ず亀吉が守るから。]
(286) 2016/06/11(Sat) 02時半頃