[喉が、細く。ひゅ、って音を立てた気がした。
右手が彼の手から落ちて、気落ちしたかのように、視線が落ちる。
その先には、麻倉が落としたナイフが黒く光っていた。
やたらに、妖艶に。]
……いつも、ちーちゃんは…、いつも。いつもいつもいつも…。
俺のこと、置いていくクセに。
先に先生に気に入られて、先にいい成績とって、先にカッコよくなって、…先に女の子に告白されて、先に恋人とか作って。…童貞だって先に捨てたくせに。
[目の前がチカチカ明滅している気がした。この場に全然関係ない、彼に対する文句というか、ただの言い掛かりみたいなどうでもいい言葉ばかりが浮かんで、浮かんだら飲み込めなくて、そのまま垂れ流す。
彼から離した手は自分の腰の横で、何にも使えない拳を握り締めて、ともすれば、震えだしそうなそれを、必死に押さえ付けた。]
(283) 2015/04/03(Fri) 22時半頃