[私は、よほど狼狽えた表情をしていたんだろうか。
ゆるりと首を振って「無理に見せなくていい」と告げる彼に、心の底からほっとする。>>245]
う、うん。
……樫樹くんの、好みではないと思う。
[言ってから、凄まじい後悔に襲われる。
私、そこまで話をしたこともない彼の、何を知っているって言うんだろう。
これじゃあ、私の読む本を「意外だね」っていう人たちと、何も変わりない。
そもそも、彼はどうして声をかけてきたんだろう。
疑問に思ってから、すぐにひとつの解に行き着いて、心が冷える。
──同情、だろうか。
ああ、だって、今の私、きっとあからさまだ。
いくら「言わないで」と志乃に懇願したって、それまでの友人たちから離れて過ごす姿は嫌でも目に入るだろう。
でも、私、そんなに惨めっぽいかな。
精一杯に背を伸ばして、何でもないよって顔をしていたつもりだったのに。]
(281) 2015/07/05(Sun) 22時頃