――回想・エレベータ前――
[かつりかつりと、廊下を歩む。空気の流れから、少し広い空間に出たことを知る。
立ち止まり、辺りを見回した]
……牧師様? ああ、こちらにいらっしゃったのね。
[彼の声が聞こえて、深く安堵の息を漏らす。足早にその方向へと向かう。距離を詰めた。
その身に触れる。彼の首に吐息をこぼした。
包みに触れて首を傾げ、さらに胸元のロザリオがないことに気づくと、口元が悲しげに引き結ばれた。
問おうとして、手を取られる。顔を上げた]
うつくしい……、ですか。
[綴られた言葉に、心が満たされるような感覚を覚えた。
常ならば即座に否定して身を引いてしまうような、自分にはそぐわぬと思っていたことば。
触れた指を、遠慮がちに滑らせる。
頬からその唇へ、少しだけ力を入れて、その感触を噛みしめるように。
首元のスカーフの蒼が、彼の立ち衿に落ちる。背を伸ばし縁を上げ、自分でも識らぬかんばせを露わに、もっと彼の元へと近づけようとして]
(281) 2011/04/17(Sun) 21時頃