──回想:樫樹 律 との会話──
──ええっ、……わ、私!?
[声をかけられての、第一声。>>244
同時に、読んでいた本を、中身が見えないようにぱたりと伏せる。
今日も今日とて、花柄のブックカバー付きだから、表紙から中身が推測される心配はない。
聞かなくたって、このクラスに"穂積さん"は私しかいない。
声をかけてきたクラスメイト──樫樹 律の顔と伏せた本とに交互に視線をやって、ほとほと困ってしまう。
白い小花の散る、淡い黄色のブックカバー。
その下に隠されているのは、大好きな作家のデビュー作。
自他ともに認める腑抜けの殺し屋が、失踪した元恋人の足取りを追いかけるストーリーだ。
主人公の設定的に、銃だとか暴力だとか、売春なんて言葉まで、出てくるわけで。
つまり、──目の前のクラスメイトに、内容なんてとても説明できっこない。]
(280) 2015/07/05(Sun) 22時頃