― 2F廊下→2F恋奈・自室 ―
[自室の扉を開いた頃、微かに階下から物音がしたような。
数秒立ち止まったものの、気にせずに扉の中へと身を滑らせる。
使い始めて間もない仮初めの部屋は、ベッドと重みのあるデスクにすぐ目が留まる。
視線を巡らせれば、書棚と埋め込まれた衣装棚など据え置きの家具があるが、どれもこれも余り『恋奈』の気配はしなかった。
唯一、デスクに置かれた家族の写真だけが、彼女が飾ったものだろう。
少しの間その写真を眺めて、れなは衣装棚へと向かう。
厚みのある両開きの戸を開くと、『恋奈』が持ってきたであろう洋服がハンガーに並ぶ。
れなは、その中の一つに鎮座する真っ赤なワンピースを見つけた。]
あった、あった。
[自身が一度だけ、この身体を自由に使えた頃に買った。
唯一の『私』が選んだ洋服――。
それから『恋奈』は一度だってその服に腕を通さなかったけれど。]
(278) 2015/01/22(Thu) 01時半頃