― オリュース市電 ―
[日暮れに差し掛かれば、西日は屋根だけでなく街全体を輝かしい橙色に染めあげる。渇いた石畳も、白い壁も、見下ろす海も、昼間の青と夜の藍を繋ぐ煌びやかな色に。
観光客はこの風景に喜ぶが、鉄道員としては緊張感が増す黄昏だ。直射のお蔭で視界が眩く、制帽の庇を引くと停留所を囲う安全帯を自然と睥睨し―――]
……ドアが開きます。
一歩下がってお待ちください。
[車内アナウンスの声が揺れなかったのは研鑽の賜物。
停留所には何人か待ち人が居たが眩い光の中で判別出来たのはひとりだけ。己が夢と仮の名前を付けた人。>>246
本職はサービス業だと地域紙で知った。新聞に打たれた広告も見たことがある。
確かにその道の先達であるなら己が憧憬抱いても可笑しくはない。密やかに手本にするくらいは許されるだろう。納得できないのに説得力だけが増えていく人。]
(278) 2019/07/27(Sat) 22時頃