―練習室A―
[携帯を差し出されて覗き込む。
文字を見て、思わず苦笑いがもれた。
没入しても音は聴こえる。ただ、普段の自分を見失ってしまうだけで。
情感溢れる演奏は長所でもあり短所でもあるとよく窘められている。お前の色に周囲を巻き込むな、と]
ドビュッシーですか
星の次は月……良いですよ。
…折角ですから僕はこちらで伴奏を入れましょう。
多少音が増えても良いですよね?
[情感たっぷりに弾いて、先生に引かれた曲だ。
淡い音が続く、これもまた切なさの混じる旋律。彼はそういった曲のほうが表現しやすいのだろうかと内心思いつつ、ピアノの蓋を開けた。
ピアニッシモが続く曲を、トランペットで伴奏するのはストレスが溜まる。そんな理由もあったのだけれど、チェロの音をしっかり聴いて見たい、これが一番の理由]
(277) 2010/09/02(Thu) 21時半頃