[思い出す記憶がある。
教室でひとり、手元に本もなくて、どうしていいか分からなくてぎゅっと手を握りしめて俯いていた時。
時折、東彩が声をかけてくれたことがある。>>74
内容は大したものじゃなくて、距離感は、クラスの男子と女子の範疇をきちんと弁えたもの。
だけど、それがなかったら、泣いてしまうんじゃないかと思うようなタイミング。
──それが、東彩だけじゃなかったことも、分かっている。]
……あの、東彩くん。
ときどき、声をかけてくれて、ありがとう。
[いつ、とは言わない。だけど、伝わるだろうか。
私も、皆が一緒で良かった。今だけじゃない、あの時も。]
私、教室に、戻るね。
チャイムの時間はまだだけど、気を付けて。
[彼がどんな表情を浮かべていたかは、分からないけど。
小さくはにかんで、手を振って、食堂を後にした。*]
(273) 2015/07/11(Sat) 21時半頃