―回想:文化祭準備期間―
[その子と話したのはまったくの偶然。その子が自分のファンだなんて、気が付かなかった。そもそも多分、ファンだと言われても本気で取らない事にしてる。大体は、社交辞令。それでも、営業スマイルでお礼を言うし、嫌いと言われるよりは嬉しいけれど]
なあ、えーと、館石、だよな?
ちょっと今度の劇の事で確認したい事があるんだけど、今いいか?
[そう言って話しかけた彼女の瞳が、恋をするように甘やかなものになったこと。それが、決定的だった。
あぁ、もしかしたらこの子は、自分のファンでいてくれてるんだろうか?
その時彼女が焦っていたのか、照れていたのか、良く覚えていない。
けれど、自分のファンで居てくれるのであれば、その子に見せられる舞台は、良い出来にしなくては。
ファンは大切なものだなんて、事務所に言われるまでもなくわかっている。
ファンなくしては、なりゆかない職業だ。
でも、やはり近くに入る芸能人へのミーハーなファンよりは、関わる以前からファンで居てくれる方が、嬉しいものだ。
それからは、より一層劇の練習に励んだ。もちろん以前から、やる気はあったけれど――。]
(271) 2015/07/05(Sun) 21時頃