[昔、空の青さを教えてくれたこどもがいた。>>249
フットマンから漸くバトラーに昇格となるかどうかといった歳の頃。雇われていた邸に招かれたゲストの──主に御子息の世話を仰せつかった時のこと。
当時はまだまだ、自覚が足りなかった。
自身が預かる命の価値。仕事に対する責任。餓鬼だからと適当に相手をすれば、それは必ず伝わるもの。
呆気なく逃走を許したと気づいた時にはさすがに肝が冷えた。この辺は富裕層が多く住まう。土地勘のない子なら、誘拐を目論む輩には絶好の機会であろ。
オリュースの特徴である坂道をあれほど恨んだことはない。髪が乱れるのも構わず、蟀谷から落ちる汗を拭うのもそこそこに、走って、走って、探し回った。
下手に名を呼べば迷子を生んだと周囲に悟られてしまう。それは、ゲストを招いた顧客の失態となる。静かに、必死に、生まれも育ちもこの街である利点を駆使して、子供が誘い込まれそうな道を進んで。]
(271) 2019/07/27(Sat) 21時頃