〜記憶〜
[棺をなでた後、動かぬ彼女に送る花はケマンソウと、ハナビシソウ。
彼の気持ちが込められたそれは、埋められた花の中に、異色なように映っただろうか。
それでもよかった。自分の気持ちのぶつけどころなど、なくなってしまったのだから。
主人を無くした犬は、任務を全うするまでなのだから。
絵を、彼女の絵画を守る。
そのためだけに、ここに来た。]
[葬儀の中、色がなく見えた娘>>206の姿をフード越しに捉え、恋焦がれた関係性に心臓が再び震えた。
最中、話しかけるような事はしなかった。
彼女があまり悲しんでいないことはうっすら察していたから。
だって娘が母と仲睦まじく話していた姿を見たことがなかった。
それでも、自分は羨ましくて。あの人と同じ血液が流れているということ自体が、喉から手が出るほど欲しかった望みだったから。
湧き上がる欲望を抑えて彼女を遠目から見ていた。
話しかけられていたならば、何食わぬ顔で返事できていただろうか。
だからこそ、彼女の妹に対する視線も含め、身内を守るためにマダムに海外に飛ばされたのだろうけれど。]
(270) 2016/07/28(Thu) 17時頃