[少女の問いかけにひどく動揺した私も、人の仔のルールになぞらえて説明をしながら、これは今の生活と何が違うのだろうかと思わなくもなかったのだけれど。
“当たり前“のことである少女と獣の関係は、死が二人を別つわけではないというのに、少女よりも幾分かはその言葉の意味を知っているだけに、どうしても気恥ずかしくなってしまった。
人の仔がそれを申し込むのはきっと私たち獣が契りを交わす時のように緊張するものなのかもしれないと、あの神木の下で彼女の手を取った時くらいに私はそれを言うのに勇気がいったのだ。
そんな私の心中を知ってか知らずか、徐に立ち上がった少女が元気よく片手を上げて、あっさりと、なる、と言うものだから思わず口端から空気が笑みを含んだ空気が漏れた。>>244
あの日、一人で学び舎に残るなどと決めていた少女がそう言ってくれることが嬉しかった。
過ごした月日で私がいかに少女を大切に思っているかを理解してくれている信頼のように思えて。]
(266) dix73 2016/10/21(Fri) 22時頃