― 医者の忠言 ―
[患者の心身を安寧に導くのが己の使命であるが、医者として出来ることが限られる相手と言うは少なくない。特に生を諦め、死を抱き寄せるようになると、身体の痛みはともあれ、心は一気に摩耗する。
きっかけのひとつでもあれば、それこそ瞬きの間に命の灯火が尽きる。
――― とある職人気質の老人もそうだった。
年齢に似合わず矍鑠とした硝子職人だと聞いていたが、己の診療所に訪れた時には明らかに生を拒んでいた。>>182
彼ら一門が持つ宗教観には疎いものの、患者の魂は既に今生を見つめておらず、来世に向かっているように思えた。彼らにとって死とは土塊に還ることではないらしい。]
私の力不足です。
至らず申し訳ない。
[最後まで治療に携わったが、結局老人を送りだしたのは医療ではなかった。弟子と聞いていた青年だけが老人の寄る辺だったのかもしれない。>>183]
(255) 2019/10/06(Sun) 14時半頃