― 回想/昨夜のこと ―
――王手、と言った所かしらねえ、
……いや、あなたからしたら「詰み」の方が正しいんだろうけれど、
[目の前に崩れ落ちる男の姿に思わず口元を歪める。その無防備な姿に「勝った」とすら思うくらいに油断していた。短く息を吸い勢いを付けて今度こそ男の首を落とそうと扇を振り下ろす。
それが彼の罠だとは微塵も思わず、目の前の甘い蜜に惹かれる蝶のように。]
ーーなッ!
[振り下ろした扇から伝わるのは首を切り落とした感触では無く、チャコールの髪を薙いだ軽い手応え。きづいた時には目の前の蜜は既にみえず――代わりにあったのは此方へと向かう大きな鉄塊。]
――ッつ、う
[急いで扇を構え後ろへ一歩後退したが鉄塊は左の腕に擦り、その痛みから唇を噛み締めた。
恐らく骨は折れてはいないだろうが攻撃を受けた腕はじんじんと痛み、武器を握るのがやっと、といった所で。
このまま戦っても勝機は薄い、それどころか圧倒的に不利な局面だ。なんとかこの場から逃げる策は無いだろうか、と考えて相手の鳩尾付近を右手で打とうとしてみたが相手の反応はどうだっただろうか。]
(253) 2014/12/12(Fri) 01時半頃