[高校2年の、夏休み前。
少し早めに配られた進路調査票を前にして、覗き込んだ未来には、ただただ何もなかった。
やりたいことも、やれることも。
それ以前に、一人で生きていくことさえも、自分には出来ないと秋野は思った。
ぼんやりとして手を止める秋野の周囲、他の生徒たちがペンを走らせる音が追い立てるように響いていた。
3年にあがる前に、進路調査票を元に、二者面談があった。
行きたい大学はないのかと尋ねられて「よく分かんないです」と、曖昧に笑う。
笑いながら、真っ白の未来の隅っこで、小さく、赤い色が過る。
いつか、秋野に振ってきたかみさまの啓示を思い出す。
「北洋を受ければ」と言った、真っ直ぐな声。
──家を出る前、最後に母が言い残した、もうひとつの言葉。>>0:15
秋野が、かつて母だった彼女の住むアパートの住所を握りしめて、そこへ向かったのは、ちょうどその日の夜。
空気が切り裂くように冷たい、雪のちらちらと舞う冬のことだった**]
(253) 2015/06/23(Tue) 18時頃