[言葉を尽くしてくれた四井が、我を失っているとも思いにくい。けれど、力をもった目は、廊下での朧のものに少し似ていた。彼もいつそうなるとも分からない。だけど、大丈夫と、彼は言った。彼が触れる手は、ひどく優しい。欲に屈するのではない。今ひとときだけ甘えて飢えを満たし、魔に耐える力を蓄えるだけだ。彼の生み出すおいしいごはんは、きっと自分に力をくれる。きっとそうだ、大丈夫だと内心に言い聞かせる。濡れた頬に唇の感触を感じ、受け入れるように目を閉じた。]……ごめ、な。おかしくなりそ、に、……っ、なったら、――すぐ、逃げろよ。[言葉とは裏腹に、絡めた指は強く握って。唇を重ね合わせ、頷く代わりにやわく食んだ。*]
(253) 2016/06/08(Wed) 08時頃