―香港小吃―
[出てきた杏仁豆腐を口に運びながら、スプーンを咥えたまま石動の話を聴く、あるいは聞き流す傍ら口の中でとろけるその風味に舌鼓を打つ贅沢……な時間は少しの間だった。入口から入ってくる客が増える。
何かに怯えたようなメガネの女性にゆるふわ気質の愛されガール的な女子高生、それを連れている小汚い……いや小汚いというよりは純粋に汚い男。一瞬饐えたような匂いがこちらにも漂ってきた。]
………うっ。
[これがイケメンとは言わずとも普通の中年男性だったら口には出さず脳内で小汚いモブに死ぬほど襲わせて溜飲を下げるところなのだが、本人がこの身なりなのだからどうしようもない。
先ほどの店員はどうやら知り合いだったようだ。こちらに注意が向かないように努めて淡々と杏仁豆腐を味わおうと思ったが、風味が台無しになってそれはできなかった。
早めに出ていってくれたのは有難かったが。]
東京にはいろんな人がいますからね。
[言葉を濁した独り言で杏仁豆腐の最後の一口を食べ終えた]
(253) 2015/06/02(Tue) 21時半頃