………、その。カイロ、返してくれ。
[下がった眉は、今度は苦笑に溶けていく。
手は、何故か自然と伸びた――不安も何もかもを、何処かに忘れてきたかのように。
カイロを握り締める彼に向けてそう言えば、少しだけ無理矢理彼の手の中のカイロを奪い取ろうとする。
奪い取れたのなら、それはベッドの上に適当に放り。取れなければ、そのカイロごと――今度は俺から、貴方の指先に手を重ねた。
"こっちの方が、きっと暖かい"――用意していた言葉はやっぱり、口には出ない。
代わりに出たのは、"今はカイロが無いから、手袋の詫びに"、なんて。そんな可愛げも無い、一言で。
そんなにも身体が冷えているのなら、ここには温泉もあるらしいし先に風呂に入って身体を温める提案をする事も頭をよぎったが――この手を離すのはどうにも、惜しく。
無論振り払われれば、追かけるなんて出来やしないけれど。]
(252) 2015/11/21(Sat) 17時頃