94 月白結び


【人】 地図抜荷 錠

[肩に触れてきた手の感触に、俯き加減だった顔が上がり、少し驚いたような視線が雪へと向いた。]

 ……。
 雪はやさしいな。

 おれは、錠前のくせに中の物を守ることができなかった。
 そしてそのまま、何もできぬまま朽ちた。
 ……けれどそれまでは、お前のような人間達に、ずっと、大切に扱われていたんだ。

[嬉しそうに、ゆるく首を傾げれば、赤錆の髪がざらりと揺れて音をたてる。]

 有難う。
 誰かに覚えられているということは、おれにとって、何よりも嬉しいことだよ。

(244) 2013/09/02(Mon) 02時頃

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