── 停留所 ──
[冷房の効いた屋内から踏み出す先、とうに西日が傾きつつあっても残る熱気に軽く詰まる息を吐き、懐中時計で時刻を確認すると、帽子を被り直して停留所へと向かう。
──件の青年の名前や経歴、シフト等を調べることなど造作もなかった。まだ未熟で粗削りな部分もあるが、やる気に溢れ将来有望な新人、とは自身の顧客であり、彼にとって上から数える方が早い上司から耳にしたこと。
不可思議な夜についても、評判を知ればなるほどと、ひとまず納得できる範疇だったように思う。
……目覚めた瞬間の、気の迷いとも言える一時の感情の揺らぎだって。酒精の悪戯か、夢心地の中、幼い頃に憧れた車掌の姿を重ねて混乱しただけに過ぎぬだろう。
白手袋に覆われた下の、節呉れて力強さを湛えた指先を冷たく感じたのは自身の身体が火照っていたからだろうが、それだって酒の影響だ。他の要因なぞあるはずがない。]
(242) 2019/07/27(Sat) 16時半頃