[先んじて仕舞おうとした訳までは察せない。
それでも、すり抜けてゆく刹那に鉄華の香が移れば、気付かないでいる事などできなかった。
(相手の為、を浮かべ、
各々が無理をしながら互いばかり見る、
此れが我を通す我儘でなくて何としよう。)
何も付いてなどいない、と。
先生が隠そうとした緋色の跡など、見えやしない、と。
頭を振った後ので言葉を口にすれば、物言いたげであった様子も変わるもので。>>196
嗚呼、“知らない人”に弱みなど見せられないだろう。
青年だって、先生にしか見せない部分もあれば、それさえしない事もあったから、若し誤魔化そうと云う気持ちに気付いても咎めなどできないが。
留めようとした言葉と、(伸ばしかけていた手とを)引っ込めてしまってから、
─── その身体が傾いた。
は、として、慌てて掴まえようとした手は、
急に息を吸ったせいで傷んだ臓に邪魔立てされる。]
(242) 2017/06/20(Tue) 23時頃